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2013-05-28 Tue 07:48

アップル、生命線・中国市場で岐路に…バッシングの陰に中国独自通信方式をめぐる攻防




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 中国を相手にした経済問題は、すなわち政治問題である。経済問題が経済のメカニズムで片付くことはない。それが中国流だ。経済案件でも中華思想がまかり通る。
 中国で米アップルへの非難が沸き起こり、ティム・クックCEO(最高経営責任者)が公式に謝罪するという騒ぎがあった。これらのアップル叩きは、中国のお家芸である政治キャンペーンにほかならなかった。
 アップル・バッシングの口火を切ったのは国営中国中央テレビ(CCTV)だった。3月15日の「世界消費者権利デー」に放映した特集番組「3・15の夕べ」において、アップル製品が保証期間内に故障したとする内容が放送されたのだ。「他国では新品と交換するのに中国では修理に応じる」だけで、「アップルは欲深く、誠意がなく、無比の傲慢さを持つ」と非難した。これをきっかけに、中国共産党の機関紙・人民日報や政府系通信社・新華社による怒涛のようなアップル批判が巻き起こった。
「アップルが傲慢であるという印象を与えた。さまざまな心配や誤解を与えたことを、心から謝罪したい」
 アップルのクックCEOは4月1日、中国の消費者向けに謝罪する声明を発表した。アップルは今後、iPhone 4とiPhone 4Sの修理が必要になった場合には、新しい端末と交換した上で、新たに1年間の保証を付けるというのだ。
 中国外務省の報道官は2日、アップルの対応を「評価する」とコメントした。これでアップル・バッシングは収束した。
 中国メディアのアップルたたきの意図の奥深さ、底意地の悪さに比べて、アップルが謝罪した理由は容易に想像できる。アップルにとって中国は米国に次ぐ第2の重要な市場であり、クックCEOは1月に「最終的には(中国が)最大市場になる」との見通しを示していた。
 2012年10-12月期の中国市場でのアップルのシェアは6番目の7.9%だった。トップは韓国サムスン電子の15.4%(IDCの調査)。アップルはシェアの拡大を狙い、中国にある直営店を向こう2年で2倍に増やす計画だ。
 こういう事情があって、アップルは中国政府と事を構えるわけにはいかなかったのだ。傲慢さを悔い改めて、白旗を掲げるしか選択肢はなかった。中国とケンカになれば、同社は莫大な損失を被ることになるからだ。
 米ウォールストリート・ジャーナル電子版(4月2日付)はシティーグループのアナリスト、グレン・ヤン氏のレポートを掲載した。<パソコン大手の米ヒューレット・パッカード(HP)が2010年3月に中国で同じような「プロパガンダキャンペーン(宣伝活動)」に直面し、その後の12カ月間で同社が中国で得ていた市場シェア42%相当が犠牲になった(失われたということ)>と指摘した。東芝も同じような問題に直面して、中国の携帯電話市場から撤退した。
 ヒューレット・パッカード(HP)の例を踏まえ<アップルが中国のシェアを50%失うと年間131億ドル(約1兆3000億円=1ドル99円で換算)の売り上げを失うのと同じことになり、1株当たり利益に換算すると約3.62ドルの喪失になると弾いた>としている。アップルが中国の圧力に屈した懐事情は、ズバリ金(ドル)である。
 一方、中国の意図はどこにあったのか? 修理の仕方に難癖をつけるために、政府系の媒体が直々に乗り出したわけではないだろう。米メディアには「(米国政府が)米企業がサイバー攻撃を受けたことに関して、中国を名指しで批判したからだ。そのしっぺ返しを受けた」との見方が多い。
 反日キャンペーンは中国の年中行事となっているが、標的になるのは日本企業だけではない。最近では、ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)や米ファーストフードのKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)がターゲットになった。2012年、CCTVの標的になったマクドナルドが放送の翌日に謝罪したのに対し、アップルは2週間もよく粘ったと(評価)する声があったほどだ。
 「AERA」4月22日号(朝日新聞出版)は、専門家の見方をこう伝えている。
<中国の携帯電話最大手の中国移動(チャイナモバイル)は、iPhoneを取り扱うかどうかをめぐり、アップルと交渉を続けているが、難航していた。ネックとなったのは中国移動が中国独自の3G規格「TD-SCDMA」方式を採用していることだ。同方式の研究開発に中国政府は長年にわたり大量の資金と人を投入してきた>
 アップルは世界基準の通信方式を採用しているから、TD-SCDMA方式の採用に乗り気でない。<「アップルの端末がTD-SCDMAを採用してくれないと、同方式はますます利用されなくなってしまうと中国政府は焦っていた」。専門家はそう指摘する>とも書く。アップルにTD-SCDMAを採用させるために政府系メディアを総動員したのが、今回のバッシングの深層(真相)である。

 アップルの13年1-3月期(第1四半期)決算は約10年ぶりに最終減益となったが、中国では急速に事業を拡大している。中国エリア(香港・台湾を含む)の売上高は11%増の88億ドル(約8700億円=1ドル99円で換算)と過去最高を記録した。ただ、伸び率は昨年10-12月期の67%増を大きく下回った。
 4-6月期(第2四半期)の売り上げ見通しはアナリストの予想を下回り、アップルは成長が鈍化しているとの懸念が強まっている。
 だから中国市場が生命線になる。中国国内の店舗数を2年で倍増する計画は、成長鈍化の苦しさと表裏一体の関係にある。しかも、中国で店舗を新規に開設するには政府の許可が必要だ。これが中国政府の有力なカードになっているのは、中国に進出している企業の、いわば常識である。新規開設を認める代わりにTD-SCDMAの採用を認めさせることを狙っているというのが、業界の共通した見方なのだ。
 クックCEOは決算発表の席で触れなかったが、業界では「13年後半か14年初めに、アップルとチャイナモバイルの提携が実現するだろう」と観測している。アップルが中国向けに TD-SCDMAに対応したiPhoneの後継機を発売する。このiPhoneをチャイナモバイルに加入している7億人の顧客に売り込むという戦略だ。まさに、政治的取引そのものである。
 国際的に孤立した、中国独自の技術を採用するかどうかで勝負は決まる。採用したら中国側の勝ち、採用しなかったらアップルは中国から締め出されることになろう。いずれにせよ、アップルに勝ち目はない。
 アップルの中国戦略は岐路に立たされている。
(文=編集部)
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